「先生もお忙しくて、わたくしに貰ったプレゼトをご自分の机の上に置いたまま出かけてしまったそうなの。それを見た奥様が、いろいろと妄想をふくらませて、あのような筋書きを作ったのではないかということでした。いつか折りを見て謝りに行くと言ってらっしゃいました」
「だけどそれなら、奥さんにはなるたけ誤解されないようになぜ説明しておかなかったんだろう」と祐介は疑問を挟んだ。
「先生のお話では、過去にもそんなことがたびたびあって、話をしてもなかなか理解して呉れないし、言い訳をするようで却って話がややこしくなるから、あきらめていらっしゃったようですわ。だから別に隠しもせず見えるところに置いておいたということでしたの」
「しかし、奥さんがそんなに想像をたくましくするようになったのは、先生が過去にやましいことがあったからじゃーないのかなー」
「でもあの先生はまじめ一方で、第一それほどの男前でもないし、女性にもてるようなタイプではありませんから、あの方に限って絶対にそんなことはありませんわ」と志保は言い切った。
「あの人に限ってというのも当てにならないことがあるし、それに男女の関係は、そう簡単なものではないから断定は出来ないかも知れないよ、ただ、よその家庭の事情はよくはわからないがもし、奥さんが本当にそんな病気だとすると先生もお気の毒な方だねー」と祐介は同情した。
その後なぜかA薬局長の来訪はなくまた、どうなったのかもわからないまま日が過ぎてしまったが、千代結びという銘菓が起こした笑うに笑えないこの出来事は、プレゼント魔の彼女に、天は『むやみに人様にプレゼントするのも考え物だよ』という教訓を与えようとしたのではないだろうか。
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