「でもそれはちゃーんとわたしに教えてくださった方がいますのよ。それにあなたは、宅の主人からペンダントを貰ったので、お礼状を書いて送られましたわね」と語気荒く続けた。
「ええっああ、あれは学校の五十周記念に希望者全員が貰ったものですが、わたくしは知らないでいたものですから貰わずにいたら、会長さんが気を利かせて、わたくしにくださったものです。だからわたくし、会長さんのおやさしい気配りに感謝を込めて、お礼状を差し上げただけのことですわ」
「あーら、そうかしら、でもねわたし、ほかのことは本当に主人に感謝していますの、でも主人の女性関係だけが悩みの種なのです。この年になって静かに、心やすらかな日々を送りたいと思っているのに、どうしてこんなことで煩わされなくてはならないのでしょう」とため息混じりの涙声で志保に訴えた。
「でも奥様、わたくしのことに関しましては思い過ごしもいいところで、まったくの誤解です。本当に大誤解ですわ」と何度も大誤解であると繰り返した。
「それならいいんだけど、いきなりこんなお電話をお掛けして申し訳ありませんでした、でもこのことは誰にも言わないで下さいね」と言って一方的に電話を切ってしまったのだった。
やみ雲に考えてもいない電話を受けた志保は、ばかばかしいやら腹立たしいやらで、なんともやりきれない思いを傍らの祐介にぶっつけた。
「ずいぶん人を侮辱した電話ですわ、わたくし明日、先生のお宅に乗り込んで行って抗議してきます」と息巻いた。
「でも、もし会長がいれば彼はずいぶんばつが悪いばかりか第一、家庭争議が起きるんじゃないかなー。先方の一方的な誤解なんだからこちらがそうでないのなら別に荒だてることもないと思うよ」と、冷静な祐介の言葉に
「あなたは当事者でないから冷静にしていられるんでしょうが、わたくし、黙ってはいられません。あなただってわかってらっしゃるでしよう、わたくしにそんな暇があるとお思いになりまして」とからんできた。
|